浜田太 エッセイ集

その5 ルーツ

原生林の中で撮影をしていて私たちの遥か遠い祖先がいつ頃何処からこの奄美大島にやってきたのか疑問に思ったことがある。
調べてみると、2万年から3万年位い前に南方からクリ舟に乗ってやって来たと考えられている。

遥か遠い祖先はどんな思いでこの奄美に上陸したのだろうか。
もし私がその頃生きていたならと、勝手に想像してみた。
航海術も確立されていなかったであろう時代にそれまでの文化を携え、かかんに大海原へ挑戦し、生死賭けながらようやくこの奄美に辿り着いたのではないか。

波間から見えた島影をどのような思いで見たのだろうか。
その頃の奄美大島は、生き物たちの生命力に溢れアマミノクロウサギをはじめハブ、ルリカケス、オオトラツグミなど今に残る多くの固有の動物たちにとって楽園のような島であっただろうと想像できる。

このような奄美に祖先は第一歩を標したのだった。
ここから私たち奄美人のルーツが始まったと考えてもいいのではと思っている。

しかし祖先にとってこの島で生きていくための教科書はなくゼロからのスタートだった。
森にどんな生き物がいて、何が食べられるのか。
またハブという毒蛇がいることも人々が犠牲になることでその恐さを知り、一つ一つ実践で学ぶしかなかった。
また台風など季節の変化や風土病なども五感を研ぎ澄ませて自然を読み、畏敬の念から神を創造し光や風、形、音、色、香を感じ個性溢れる文化を創り出してきたに違いない。

そして、いつの時代にも新たな文化を携えた人々がやってきてその文化を取り入れ気の遠くなるような時間をかけて積み重ねて来たのではないか。
そこには、厳しい風土と様々な歴史に翻弄されながら生きつづけてきた私たち祖先の姿があるような気がした。

最近奄美の自然と文化が世界的な評価を受けている。
それも全て祖先が守り育んできた私たちのアイデンティティ―なのだと思うと今私たちが何をすべきか問われているような気がする。

琉球新報社 落穂 2002.9.3掲載